ニーズを読み違える
【第28回 美術を語る茶会】
開催地:自宅
参加者:3名
今回は大阪からもお客さんがいらっしゃいました。「こっちにも遊びに来て下さいよ、案内しますから」といううれしいお言葉をいただきましたが、そこから「意外と地元を案内するのって難しいよね」という話になりました。
そこで披露したぼくのちょっとした失敗談をここに書こうと思います。
数年前ぼくが文京区の小石川に住んでいた頃、熊本からお客さんがいらして、東京を案内するということがありました。そのときぼくは自転車で谷中、根津、千駄木あたりの古い町並みをまわるプランを立てました。その地域はその頭文字をとり「谷根千」などと呼ばれ、昭和の雰囲気の残る、東京の人にも人気の観光スポットです。しかも近所だしこりゃ最高!そう思ったのです。
しかし当日、彼はあまり浮かない顔つきです。どうしたのかな?と思ったそのとき、ボソッとこんな一言が。
「なんか熊本みたいだなぁ…」
やってしまいました。
プランの立て間違い。そう、実は自分もこれと同じような経験をしたことがあったのです。
ぼくは作品制作で地方に行く機会が多いのですが、ある地方のかなり田舎の地域に行ったときのことです。気を利かせて地元の方が案内してくれたのは、地元で人気の最新のショッピングモール。そこのスターバックスみたいな所で甘いもの食べたように記憶していますが、そのときのぼくの感想は、
「なんか東京みたいだなぁ」
連れて行ってくださった方には本当に申し訳ないのですが、ぜんぜん面白くなかったのだけはよく憶えいます。ぼくとしては、田舎の田園風景や自然とか、地元の人しか知らないような寂れた神社とか、そんなところを見たかったのです。土地の方には何でもないもの、そこにぼくのニーズがあったということです。
さて、熊本の彼のニーズは何だったのか。
それは言うまでもなく「都会」です。
田舎において都会的なものが珍しいのと同じように、都会においては田舎的なものは有り難がられます。古い町並みが残り、大きなビルも無いノスタルジックな雰囲気の谷根千は、都心においては田舎的です。だから人気のスポットであると思うのですが、ぼくが一度だけ訪れた熊本市は、確かにこんな雰囲気でした。
さらに、埼玉は朝霞出身のぼくとしては、都心で地元民がママチャリを乗りまわしているのは、ひとつの憧れでありました。文京区小石川在住ということを密かに(いや、本当はかなり露骨に)ステータスと感じ、心の中でニヤついていた当時のぼくは、そんな経験を彼にもさせてあげようと思ったのだと思います。
しかしよく考えれば、東京近郊限定の微妙な事情からくるステータスなどとは無縁の彼にとっては、ママチャリなどは何の魅力もない、普段の乗り物でしかありません。しかもそれに乗って地元熊本みたいな所をサイクリング。ぼくのお気に入りの風情のある裏道、東京のど真ん中とは思えない枯れた道ばかり厳選して案内したのです。
完全にニーズの読み間違いです。
恐らく「地下鉄に乗って六本木ヒルズ!」が正解だったように思います。
価値の在りかは人それぞれです。
表現においても的確に何かを伝えたい場合は、対象者の心の機微をしっかり読むのは大事かもしれませんね。なんて最後は無理やり美術っぽく締めたいところですが、単なる「表現」に終わらない「本当の芸術」はそんなことは微塵も考えず、ぶっ放す!!そうあるべきだと思っています。
ん?
今回は芸術論的にはちっとも結論めいたことのない、ちぐはぐな文章となってしまいました。
ありゃありゃ。
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